飛騨の匠とはHIDA NO TAKUMI
ミュージアム飛騨 現代の家具コーナーのリニューアル
ミュージアム飛騨地下一階の「現代の飛騨の家具」展示が2021年11月リニューアルされました。これまでの<100脚の椅子と、100の座り心地>展示にプラスして、材料である木から飛騨の椅子が出来上がるまでを順を追って紹介しています。
樹から家具へ
丸太を製材して家具にする。言葉にすればそれだけですが、そこには経験に培われた数々の技術が生きています。まず始めに家具に適した良い丸太を選ぶこと、そしてそこから得られる良材を乾燥させる技術です。樹は大地に根を張っているときには、たくさんの水分を吸い上げ枝葉に行き渡らせ成長します。そのため伐採して丸太になっても多くの水分を含んでいて、そのままでは家具には使えません。板材や角材に挽き分け、水分を適度に抜いて反ったりゆがんだりしにくい家具に適した材に仕上げる技は、椅子の基礎工事ともいえる重要な工程。こうして得られた家具用材は、いよいよ椅子へと生まれ変わる旅に出ます。
椅子部材への加工
ところで木の椅子が壊れる時、どのように破損するのでしょうか。それは椅子を構成する部品どうしの勘合部が緩んでガタつき、やがて抜けるか、部品のどれかが折れる事がほとんどです。緩みにくく、折れにくい椅子は長持ちすると言えます。
使いやすく強い椅子を作るために、椅子づくりの技術は進歩してきました。展示でご覧いただける部材同士をしっかりとつなぐホゾ組みは高い精度で加工され、木目を切らず折れにくい部材を作る曲木では、材の中にまだ水分を多く残した(半乾)という状態で曲げ、その後しっかりと乾燥し定着させます。どの工程にも数多くのノウハウが息づいているのです。
試験の重要性
今回のリニューアルのなかでも(椅子の繰り返し衝撃試験)の様子を原寸模型で再現した展示は見所です。繰り返し衝撃試験の概要は、椅子の座面に55kgの重りを載せて後脚を支点に前脚を50ミリ浮かせた状態から落下させる。これを4000回繰り返すことを基準とし、終了後支障がない製品を合格とします。体重55キロの人が腰掛け、背もたれに体重をかけて伸びをすると椅子の前脚が持ち上がることがありますね。伸びが終わって力を抜くと前脚を床に衝突させて椅子は元に戻る。これを4000回、椅子にとって過酷です。家具を使うユーザーのほとんどの方は見る機会がない。それでも椅子を安全に使い続けられることを確認する大切な試験のひとつです。
長く使えることの意味
こうして見ると<「飛騨の家具®」現代の家具と6つの約束>の展示はどれも、「ユーザーに安心して長く椅子を使い続けてもらう」ためにあるようです。では、長く使えるメリットとは何でしょう。「すぐに壊れて買い替えるのは、自然環境にもお財布にも優しくない」「壊れるとケガをするかもしれない」家具は安全に使えなければならないし、貴重な資源を無駄にしてはいけない。いずれも重要なことです。そしてもうひとつ、こんな考え方もあります。
(長く大切にされた椅子は味わいが増す)
使い込まれたビンテージの家具は大変な人気で、その理由は ・唯一無二の希少性 ・長年使用された痕跡の味わい ・時代を感じさせるレトロ感 などでしょうか。感じ方は人それぞれですが、手に馴染んだ肘や身体をあずけた背もたれは光沢が増し、新品の時にはない趣を見せます。アンティークで購入した椅子は、前オーナーの歴史を引き継ぎますが、自ら使い続けた椅子はあなた自身の歴史そのもの。その変化を「いとおしい」と感じるユーザーにはかけがえのない椅子になります。
飛騨木工連合会の発行する冊子『飛騨の家具ものがたり』には「家具として耐久性があることは当然、大切なことは飽きずに愛着をもって、孫子の代まで自慢できるような伝承される家具でありたいと願っています」という一文が記されています。
技術は人の生活を便利で快適にし、環境にも優しくあらねばなりません。さらに使い続ける人の気持ちを和ませ、その想いを次の代へと受け継がれるものづくりに生かされるとすれば、それは何よりも素敵なことではないでしょうか。
- ※ 椅子の試験と岐阜県生活技術研究所
自社で行えない試験は地元飛騨の岐阜県生活技術研究所にも依頼できます。岐阜県生活技術研究所は木製家具製品や住宅建材などの岐阜県の地場産業の振興を目的とした研究開発や技術支援(依頼試験、開放機器利用等)を行う公設試験研究機関です。
椅子の強度と耐久性の試験方法は、 ・座面の静的強度試験 ・背もたれの静的強度試験 ・ひじ部及び頭もたせの静的水平力試験 ・ひじ部の静的垂直力試験 ・座面の耐久性試験 ・背もたれの耐久性試験など多項目に及び、必要な試験を組み合 わせて実施します。