飛騨の匠とはHIDA NO TAKUMI
飛鳥・奈良・京都の古代寺院
飛騨匠は何時から都に行くようになったのか(都の拡大)
古墳が作られた時代、大王(おおきみ)が支配する倭国(わこく)を中心とし、有力氏族が連合していた。奈良盆地の大和地方を中心にした国が、周辺の国を従えていたので大和朝廷(王権)と歴史上では呼ばれている。『古事記』や『日本書紀』では「倭(やまと)」と表記されている。
古代日本において大王は権力の頂点にあり、天皇と呼称されるようになったのは、推古天皇時代(592〜)からなど諸説がある。中央集権国家の君主としての「天皇」は宮殿に居住し、そこは「内廷」と言われる。それに対して公の機能を持たせた場所は「外廷」となる。卑弥呼の時代は「内廷」と「外廷」が分かれていなかったが、中央集権が進むに従って家政(内廷)と国政(外廷)に分かれてゆき、それが強化、拡大されていった。遷都を重ねながらどんどん拡大、進化してゆくという、我が国の都の成立、発展の歴史となるのである。
この発展過程には、中央集権による支配地域の拡大はもちろん、宮殿の造営、建築の労役負担制度、建築技術の確立などの重要な仕組みが不可欠である。優れた木工技術と強い組織力を持っていた飛騨の人たちが、この必要不可欠の仕組みに取り込まれてゆくには必然性があったのであろう。
初代の天皇は神武天皇から125代、123人として大正時代に確定したが、その実在性については現在次の三つの説がある。
- 第10代 崇神(すじん)天皇から
- 第15代 応神天皇から(4世紀末〜)
- 継体天皇から(507年?〜)
このうち、学術的には継体天皇からという説が有力である。天皇が代を重ねる中で、第33代 推古天皇の時代(在位592〜628年)における宮殿跡推定地(明日香村豊浦)が発掘調査された。
その後の第34代 舒明天皇からの宮殿跡推定地(飛鳥岡本宮)も発掘調査がなされている。以降の天皇に関わる宮殿、京の遺構について、明日香村、独立行政法人・奈良国立文化財研究所、橿原考古学研究所は発掘成果をまとめ、「飛鳥諸宮」、「藤原京」、「平城京」の宮殿・都の変遷を公表している。
これらを基に、飛騨匠が何時から宮殿、都造りに参画していったのか、飛騨工の制度化の始まり、制度の前身があったのかは、次の「宮と京の変遷一覧」によって推察されることを期待する。
宮と京の変遷一覧
⑪~⑳は大規模な宮都。
宮と京の成立年と天皇について次の通り一覧表を作成した。
❶ 豊浦宮(とゆらのみや) | 明日香村豊浦 592〜 推古天皇(女帝) |
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❷ 小墾田宮(おはりだのみや) |
明日香板葺宮跡に隣接 603〜 推古天皇(女帝) |
❸ 飛鳥岡本宮(あすかおかもとのみや) |
明日香板葺宮跡に隣接 630〜 舒明天皇 |
❹ 飛鳥板葺宮(いたぶきのみや) |
明日香板葺宮跡 643〜 皇極天皇(女帝) |
❺ 難波長柄豊崎宮(なにわのながらのとよさきのみや、前期難波宮) |
大阪市中央区 難波宮史跡公園 645〜 孝徳天皇 |
❻ 飛鳥川原宮(かわらぐう) |
明日香村川原 655〜 斉明天皇(皇極天皇・女帝) |
❼ 後飛鳥岡本宮(ごあすかおかもとのみや) |
明日香板葺宮跡に隣接 656〜 斉明天皇、天智天皇 |
❽ 近江大津宮(おおみおおつのみや) |
滋賀県大津市 667〜 天智天皇 |
❾ 後飛鳥岡本宮(ごあすかおかもとのみや) |
明日香板葺宮跡に隣接 671〜 弘文天皇 |
❿ 飛鳥浄御原宮(あすかのきよみはらのみや) |
明日香板葺宮跡 672〜 天武天皇 |
⑪ 藤原京(ふじわらきょう) |
奈良県橿原市 694〜710 持統、文武、元明天皇の3代 |
⑫ 平城京(へいじょうきょう) |
奈良市佐紀町 710〜740 元明、元正、聖武天皇 |
⑬ 恭仁京(くにきょう) |
京都府木津川市加茂町 740〜744 聖武天皇 |
⑭ 難波京(なにわきょう) |
大阪市中央区 難波宮史跡公園 744〜745 聖武天皇(造営は734年に完成) |
⑮ 紫香楽宮(しがらきのみや) |
滋賀県甲賀市信楽町宮町 745〜745 聖武天皇(すぐ平城へ帰った) |
⑯ 平城京(へいじょうきょう) |
奈良市佐紀町 745〜784 聖武、孝謙、淳仁、称徳、光仁、桓武 |
⑰ 長岡京(ながおかきょう) |
京都府向日市 784〜794 桓武天皇 |
⑱ 平安京(へいあんきょう) |
京都府京都市千本通、内裏は上京区 794〜1180 桓武、平城、嵯峨、淳和、仁明、文徳、清和、陽成天皇〜 |
⑲ 福原京(ふくはらきょう) |
兵庫県神戸市兵庫区 1180年6月〜11月 安徳天皇 |
⑳ 平安京(へいあんきょう) |
1180年11月〜 1869(明治2)年 安徳、後鳥羽、土御門天皇〜 |
※参考文献 『新・飛騨の匠ものがたりⅣ』ほか、明日香、奈良地域等の各資料館、各史跡説明板による。